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iPS細胞による新たながん治療法

 iPS細胞を使って「キラーT細胞」を作り、マウスに投与することでがんを縮小させることに東京大学などのグループが成功した。体内の異物を攻撃するキラーT細胞をiPS細胞から作りだすと増殖力が増し、がん細胞を殺す効果が持続し、その結果10分の1まで縮小させることが出来た。本来体内にあるべき細胞であり、体への負担も少なく、今後臨床への応用が期待されている。

「分子標的薬」

 従来のいわゆる抗がん剤というものは、がん細胞の分裂が早いことに着目した薬剤が中心で、がんにもある程度効果がでるが、同じように細胞分裂が盛んな髪の毛や口腔内・腸管の粘膜への影響もみられ、脱毛や口内炎・下痢を来す薬剤が多かった。
 そこから「分子標的薬」というものが登場し、ある遺伝子を発現していると、それをターゲットとした薬剤を投与することにより治療効果を高める方法が主流となり、様々な癌種で開発が進んだ。効果のある薬を開発するために、その遺伝子変異を持つ少数派を見つけるという一面も持ち合わせていた。その結果、治療がよく効く患者グループは大きな恩恵を受けるが、そうではない方々は依然として従来型の治療を続けるしかないのが現状である。

飛躍的に進歩した免疫療法

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  今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)は免疫治療に関わる発表が相次いだ。今までは注目されていなかった治療法が今脚光を浴びている。免疫治療というと、今までは「あまり効かない、効果を示すデータが乏しい代替医療」というイメージがあった。
 
 しかし、現在注目されているものは、それらのものとはメカニズムや効果の面で全く異なる「免疫チェックポイント阻害療法」というものだ。そのため免疫治療が効くというニュースを効いて、安易に従来型のデータに乏しい治療法にとびつかないことを願いたい。
 がん細胞は自分を攻撃してくるキラーT細胞をある手段を使って、攻撃できなくしてしまうことがわかっている。それは免疫チェックポイントと呼ばれるもので、例えばそれらの中の一つにT細胞側にPD-1という分子があり、がん細胞にはそのPD-1につくためのPD-L1という免疫チェックポイント分子が発現している。これらがくっつくとT細胞の働きが抑制され、がん細胞を攻撃しなくなってしまう。
 そこで開発されたのが、そのPD-1とPD-L1をくっつかなくさせるための「免疫チェックポイント阻害薬」である。これによりT細胞は本来の働きが戻りがん細胞に攻撃を再開するのである。日本国内では現在悪性黒色腫という皮膚癌に適応となっており、今後他の癌種に適応が拡大していくことが見込まれている。

がん治療の未来

 iPS細胞から作り出された「キラーT細胞」と、例えば上述の「免疫チェックポイント阻害薬」の併用ができるようになればかなりの効果が見込めるかもしれない。
 いつの時代も医療は進歩を続けているが、まさしくがん医療も大きな変革を目の前にしているところに我々はいるのかもしれない。ただし、かなりの高額医療になることも問題視されており、適切な診断・治療が今後も求められることに変わりはない。