今年の3月、同性カップルに対し「結婚に相当する関係」を認める条例*が渋谷区にて成立した。同性カップルの関係を公的に認めた日本では初めての条例であり、この条例により同性カップルは渋谷区から証明書が発行され、法的効力はないがアパートの入居や病院に証明書を提示することが可能になる。

婚姻に関して日本の憲法は「両性の合意のみに基いて成立し」*と明記されているため現法で同性結婚をすることは不可能だが、欧米の社会が時間をかけてより同性愛に対して寛容的に変化したように、日本の社会も今後より同性結婚について議論される事が予想される。また医療関係者にとっても、同性結婚とヘルスケアは切り離せない課題である事を認識するべきである。

現在、日本の医療業界では同性結婚についての議論が十分にされていない。しかし上記に述べた渋谷区の同性カップルに対する条例も病院での面会を「家族ではない」との理由で断られる問題から発展したものである。同性結婚の議論がより進んだ場合、日本の医療関係者はどのようなスタンスをとるべきなのか。

先月発表されたアメリカの著名な医学雑誌「The New England Journal of Medicine」による社説は同性結婚を福祉的観点から賛同する医師によって書かれた記事である。「In Support of Same-Sex Marriage」*と題されたこの記事を要約すると:

・アメリカの大半の州は同性結婚を認めており、今年(2015年)の6月にはすべての州にて同性結婚が認められる見通しである事

・過去の同性愛者への差別は反省されるべきであり、1987年まで根拠もなく同性愛が精神病の一部だと医学的にみなされていたが、同性愛は通常の愛の表現方法の一部である事

・社会が同性愛を認めないのは同性愛者への偏見につながり、同性愛者のストレス、不安、うつ病、そして自殺に繋がる。また、同性結婚は長期的な安定による健康の推進と病気のリスクが下がることが医学的に予想されている*

・医療従事者は患者の思想や人種、性などを差別せずに万民に医療を施すべきものである。そして同性愛者の結婚が法的に認められないことは同性カップルの人権と家族的繋がり、保険や税制上のメリットを否定することであり社会福祉の損失である事

以上が論説であり国際的に有力な医学雑誌が同性結婚に賛同の立場を示している。米国の統計調査*によると人口の約2%は同性愛者であるとの報告が出されているが、日本社会はいまだカミングアウト(自らが同性愛者だと公表)する事に不利な環境であり積極的な意見が出されにくいことが予想される。しかしアメリカでの法改正や渋谷区での条例が示すように、将来的に日本でも同性結婚についての議論が進む可能性は高い。そして上記の論説が示すように今後、医療関係者は社会福祉の当事者として同性結婚に対して意見を求められると推測される。

4月26日、渋谷区での区長選挙にて同性パートナー条例を発案した長谷部健氏が初当選した*。自民党や民主党などが支援した候補らと競い、政党の支援を受けず長谷部健氏が渋谷区長に当選した事実は今後の日本社会がより同性結婚に向き合わなければならない事を示している。

参考文献:
*1「同性パートナー条例が成立 渋谷区議会で賛成多数」 日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXLAS0040010_R30C15A3000000/
*2 日本国憲法第27条
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%8c%9b%96%40&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S21KE000&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1
*3 In Support of Same-Sex Marriage: The New England Journal of Medicine, 2015
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMe1505179#t=article
*4 Same-Sex Marriage — A Prescription for Better HealthSame-Sex Marriage:The New England Journal of Medicine, 2014
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp1400254
*5 Sexual Orientation and Health Among U.S. Adults: National Health Interview Survey, 2013
http://www.cdc.gov/nchs/data/nhsr/nhsr077.pdf
*6「同性カップルに証明書の発案者、渋谷区長に当選」 日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG26HCC_W5A420C1CC1000/