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ビリギャルに学ぶ受験勉強法

『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(坪田信貴著)はいまやベストセラーになり、映画作の上映も始まりました。
作品の中では、合格に導く様々なモチベーション理論、ゴール設定のあり方から記憶法に至るまで様々な角度で実践されています。
昨今、勉強法・記憶法をはじめとするいわゆる勉強本”は学生・社会人問わず注目を浴びるジャンルとして定着していますが、脳科学的にも効果的と思われる方法は数多く存在します。
今回、そんな方法の新たな知見に結びつくかもしれない脳の仕組みが、東京大学の研究班により解明されました。

そもそも記憶は脳のどの部分で処理されているのか。

一般に、日常生活の中で起きた出来事や勉強して学んだ新しい内容は、脳の「海馬(かいば)」と呼ばれる場所で、一度内容を整理された上で大脳皮質に留められます。つまり新しい記憶は海馬でまとめられ、古い記憶は大脳皮質でまとめられているのです。ただ、海馬は非常にデリケートな場所であり、脳の中で唯一細胞分裂を繰り返す細胞が集まる場所なので、沢山の酸素を必要としています。そのため、酸素不足や外的傷害などが起きるとすぐ記憶した内容がなくなってしまいます。  

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東京大学が”記憶を正しく思い出すための脳の仕組み”を解明

脳へのデータ入力にあたる記憶に関しては、海馬・大脳皮質が大きな役目を果たしていることがわかりました。しかし、そもそも記憶された内容に関して、脳自体が記憶を思い出すための仕組みはこれまで解明されていませんでした。試験勉強でも、知識をいくら沢山蓄えたとしても、それをアウトプットできなければ意味がありません。
今回、この記憶を思い出すための脳の仕組みを東京大学の研究グループが解明したのです。

記憶を思い出している際に、認知機能や記憶の中枢として知られる大脳の側頭葉(注1)で、高次領域から送られる信号によって低次領域の皮質層(注2)間にまたがる神経回路が活性化されることを明らかにしました。
これまでの研究により、大脳の後方側面に位置する側頭葉では、視覚の長期的な記憶に関わるニューロン群が存在することは知られていました。しかし、従来はニューロンの活動を一つずつ計測する手法が一般的であったため、記憶を想起している際に側頭葉の複数の領域にまたがるニューロン群がどのような原理で活性化されるかは明らかにされていませんでした。

注1)側頭葉
大脳は、前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉に分けられる。側頭葉は、脳の後方側面を占め
る脳領域で、視覚や聴覚などの認知機能や記憶の中枢として知られています。
注2)大脳皮質の六層構造
大脳皮質は一般的に六層の層構造から構成されます。解剖学的に脳表面から I‐VI 層に分類
され、IV 層は下位の皮質からの信号を受け取る入力層であり、浅層である I‐III層や深層である V‐VI層と区別されます。

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ビリギャルにみる記憶のコツとは?

ビリギャルは、母親・坪田先生の励ましにより、一念発起し受験勉強に挑みます。坪田先生は勉強に対しての取り組みに関しても非常に丁寧に観察し、褒めることを怠らなかったそうです。これは、まさにピグマリオン効果(注3)を最大限に活かした方法。褒められた側も、脳が喜びを感じることで、モチベーションも記憶の定着にも効果が期待できるのです。

最初に記憶と海馬の関係を記しましたが、記憶の定着には、実は海馬のすぐ傍にある「扁桃体」という場所がとても大切な役割をしています。この扁桃体が活動すると神経細胞同士の結びつきが活発になり、記憶力が高まるのを強力に助けてくれるのです。先生から褒められたり、喜びを感じる、またワクワク感やドキドキした感情はこの扁桃体の活動をより活発にしてくれるのです。

ビリギャルは、勉強一筋といった固い感じでははく、時として友達も巻き込み楽しみながらも勉強をしていたようです。そして、この”楽しみながら”というポイントは非常に重要。扁桃体は、実は”感情”にも関係する部位なので、感情豊かに学ぶこと記憶の定着に、より効果的。楽しくなくても、楽しんじゃう、もしくは感情を込めて「すごい!」「楽しそう!」などと感情を交えながら学習するだけで、扁桃体は大活躍してくれます。そうです、普通の勉強ですらも自分自身で勝手に楽しんじゃえば、脳が喜んで記憶力まで自然にアップできてしまうのです。

注3)指導者が学習者に対して期待を持って接することによって、学習者も期待に応えようとして成績があがる現象。 米国教育心理学者ローゼンタールらが行った実験で小学生に知能テストをさせた後、結果とは関係なくランダムに「将来伸びるであろう生徒の名前」を教師に告げたところ、1年後にその生徒達の成績が明らかに伸びていた、というもの。これは、相手の可能性を信じ「必ず伸びる」と応援してあげれば、本当にそのとおりになるということを示しています。また、「ピグマリオン」とは、ギリシャ神話に登場する彫刻家。彼は自分が彫った彫像に恋をし、ついには神がその彫像に命を吹き込むという話が由来となっています。

脳科学的な記憶の解明はまだまだこれからも続く

今回、”記憶を引き出す”ことにフォーカスを当て東京大学の学術発表についてご紹介しました。今後、脳科学における研究の進歩により、だれもが簡単に実践できる効率的な学習・記憶方法が生み出されるかもしれません。”脳”はまだまだ未知の世界が広がる神秘的な臓器。今後も世界中での更なる研究を期待します。