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大腸がんが胃がんを抜き1位に

3日に国立がん研究センターが2013年の「がん診療連携拠点病院」の診療実績を公表しました。男性では2007年の集計開始以来初めて胃がんを抜き大腸が1位となりました。最近も有名人が大腸癌で亡くなったというニュースが度々流れており、一般の方々にも大腸癌が増えているのでは、という実感があるのではないでしょうか。また、全体としての症例数も前年から3万9千人増加していました。2人に1人ががんになる時代ですし、今後も増加していくことが予想されます。それではなぜ大腸がんが増えたのでしょうか。

国立研究開発法人国立がん研究センター 院内がん登録2013年集計報告

www.ncc.go.jp

正確には分かっていない部分が多いと思います。元々大腸がんは欧米に多い疾患でした。米国に移住した日本人を調べたところ大腸がんになった人が多かったことから、肉類などの洋食中心の食生活が原因の一つと考えられるようになりました。しかしそれだけではなく、様々な要因が遺伝子に影響を与えていることも分かっており、遺伝・環境要因などが複雑にからまって増加していると考えられます。また、脳・心血管系の疾患が治癒する方が増えており、高齢化も相まってがんに罹患する方が増えているのかもしれません。

厚生労働省の取り組み

厚生労働省が、全国どこでも質の高い治療が受けられるようにと「がん診療連携拠点病院」というシステムを作りました。ホームページで公表されておりますが、主に地域の中心的な大病院です。専門的な治療を提供するためにそれらの病院には専門スタッフが集まっています。また患者・家族側のニーズとしても「より良い医療」を求めて大病院に集まる傾向があります。がんという難敵に立ち向かうためにはバラバラで診療を行っていては良い結果が得られないため一点集中させて総合力で対応しようという姿勢です。従って、それらの病院にかかるがん患者は自然と増えていくことが予想されます。もちろん実際の罹患数も増えています。

抗癌剤の進歩と「がん薬物療法専門医」の誕生

近年大腸がんの抗癌剤が目覚ましく進歩しています。
ここ数年で次々に新薬が承認されました。それまで抗癌剤治療は、地域病院の消化器内科・外科が対応することが多かったのが現状ですが、外科では手術件数が増え、腹腔鏡などの技術が進んでいますし、内科でも内視鏡を使用した検査・治療が増加しています。
複雑化した抗癌剤の治療に十分手が回らなくなってきました。そこで誕生したのが抗癌剤を専門とする「がん薬物療法専門医」です。ようやく全国で1000人に到達しましたが、地方ではまだまだ不足しているのが現状です。そうなるとそのような拠点病院に専門医が集まる傾向にあり、抗癌剤を受ける患者は拠点病院へ、となります。

問題点と今後の課題

今回公表されたデータの中にはこのような原因もあるのかもしれません。
より専門的な治療が受けられるメリットがありますが、一方で問題点も指摘されてきました。そのような大病院では、治療導入は出来ても、治療が難しくなった患者をそのまま継続してフォローすることがマンパワーとして困難です。治療のために、と自宅から離れた大都市の病院に頑張って通って治療を続けてきたのに、治療方法がなくなると地元の病院に戻らざるを得なくなります。地元の病院も地域の患者をたくさん抱えており、すべてを受け入れるのが困難な場合もあり、いわゆる「がん難民」が増加する恐れがあります。皮肉なものですが、治療が進めば進むほど「がん難民」が増える可能性を秘めているのかもしれません。願わくば、拠点病院でなくても標準とされる治療がしっかり出来ることや、拠点病院で治療をしながら地元の病院にもかかっておくことが大事になってくるでしょう。また、地域一般病院の入院ベッドもすでにいっぱいの状況です。
今後は訪問診療というシステムを組み入れた「在宅緩和ケア」をより積極的に進めなくてはならないでしょう。どの場所で治療をするにしても、積極的治療を受ける意義を個々がしっかりと考えて、後悔しない選択が必要となってくると思います。