へき地や過疎化・医師不足など、地域によって医療格差が大きくなっていることが問題となっています。こうしたことから、インターネット回線などを利用した、遠隔診療が注目されています。実際に遠隔診療を導入することによって、平等な医療を提供することが可能になりつつあります。ただし、遠隔診療にはまだまだ課題も多くあるなど問題点も浮上しつつあります。ここでは、遠隔診療の課題や問題点について取り上げます。

目次

遠隔診療の目的とメリット

遠隔診療とは、インターネットなどの通信手段を用いて診療を行うことを指しています。この技術によって、テレビ会議システムを利用した患者と医師とのリアルタイムでの問診や、X線画像・心電図などの生体信号のデータを遠方の主治医に送信し、経過を仰ぐこともできるようになりました。

◇遠隔診療の目的
医師1人が1日に診療できる人数は限られています。また、総合内科など急性期における総合的な医療の提供が一般的となりつつありますが、総合診療医もまだまだ不足している状態です。加えて、限界集落などは高齢者の割合が増えており、おいそれと医療機関へ足を運べない人が増えているといった現状も存在しています。

そこで、先述のテレビ会議システムなどを用い、その地域と医療機関とを結び診療を行うことで、医師が常駐せずにその地域の医療をカバーできる仕組みを構築し、1人でも多くの医療介在を可能にしました。

◇遠隔診療のメリット
このところでは、テレビ会議システム以外にも、スマホやタブレットというようなデバイスを用いて医師の診断を仰げるようになりました。このようにモバイルタイプのデバイスを利用することで、患者・医師共に空いている時間を使ってやりとりができるメリットがあります。これは、血圧等の管理が必要な慢性病の診療等に役立つと考えられています。また、生活習慣改善のために医師にかかりやすくなるメリットも得られます。

この他、診療担当医が自分の専門範囲外の急性期症状を診療せざるを得ない時、遠隔診療ができれば、専門医に診断を仰ぐことができますし、適切な処置ができるといったメリットもあるでしょう。

遠隔診療が日本ではあまり普及していない理由

しかし、海外では遠隔診療が一般化している一方、日本ではあまり普及に至っていません。それはなぜでしょうか。

日本では地域内に医療機関が点在しており、多少の体調不良でも気軽に医師に診察を受けられる良さがあります。また、健康保険制度が充実しているため、病気にかかりやすい子どもや高齢者などは少額負担で診察を受けることもできます。

また、日本の文化・国民性として、「顔を合わせることがコミュニケーション(face to face)」と考える傾向にある点も挙げられます。患者が医師や看護師に直接会って、触れてもらうだけでも患者は安心できます。それが、遠隔診療でモニター画面越しにコミュニケーションをとるようになると、どんなに丁寧な説明を含めた診療体制をとっていても、「納得できない」「診療に不満が残る」というような感情を持つ患者も出てくることが考えられます。

顔色や手足の冷たさを直接診ることや、口臭や体臭から異変を感じとるといった「五感を使った診療」を行いにくくなるため、遠隔診療を敬遠する医師もいるようです。また、遠隔診療が整っていても、その場に治療設備や治療ができる医療従事者がいるといった医療的環境が整っていなければ、どんな権威のもとでの遠隔診療でも意味をなさないものになります。

これらが日本において遠隔診療が大きく普及しないと理由と考えられます。

遠隔診療のデメリットと問題点とは

遠隔診療に関して、医師側の不安が浮き彫りとなっています。先にも触れましたが、医師は五感を使って患者を診ることで初期の鑑別診断を行います。しかし、遠隔診療ではそれができずに、患者が発する「身体のサイン」を見逃してしまうかもしれないといったデメリットが存在します。また、モニターを介した医師と患者間との信頼関係の構築問題も存在します。

遠隔診療は対面診療と同様、時間を割いてじっくり診療できるといったメリットがあっても、どうしても直接の診療ではないため、数値だけで判断せざるを得ない部分が生じます。そのため患者の情報は正確かどうか、ちょっとした猜疑心が生まれてしまうことも否めません。もちろん患者側としてもモニター越しだから医師の表情が見えない、音声が聞き取りにくく理解しづらいといった不安も出てきます。

また、画像診断などの取り違えや、診療対象患者の取り違え、処方のミスといった医療事故のリスクも対面診療と比べると高まることも考えられます。なお、これらのデメリットを解消し、遠隔診療を広めるために学会も存在しています。これからの遠隔診療の拡大に期待しましょう。

遠隔診療はメリットが大きいため、へき地や限界集落、慢性病の診療などに効果が出ています。一方、医師・患者双方のデメリットも存在しているため、まだまだ普及できていない現状があります。学会などがイニシアチブを持ち、医師・患者双方における遠隔診療に対する理解を深めていくことが急務であるといえます。