目次

抗癌剤の進歩について

近年抗癌剤の進歩が著しいです。延命目的となる抗癌剤治療以外にも様々な抗癌剤の使用方法があるのを御存じでしょうか。血液のがんと呼ばれる白血病や悪性リンパ腫は、種類にもよるが積極的な抗癌剤治療によって治る(寛解)可能性が高いです。また臓器に発生するがんでも種類によっては手術前に集中的な抗癌剤治療を行うことによって根治手術の可能性を高めることができます。そのため、これらのがんでは比較的強めの副作用が出ることを分かりながらも、根治に向けて治療が行われます。そして、それらの治療が行われるがんは比較的若年者が発症することが多いのです。(悪性リンパ腫や乳癌など)

抗癌剤の副作用

抗癌剤の副作用というとイメージされやすいものは、吐き気や脱毛でしょうか。なぜ脱毛が起きるのかというと、細胞分裂が盛んな場所ほど影響を受けやすいためです。同じ理由で、血液が一時的に造られにくくなったり、皮膚や粘膜なども影響を受けやすいのです。また、卵巣や精巣もまた体の中で比較的活発に活動している臓器であるため影響を受けやすいのです。薬剤や投与量によっては、永久的に影響を受ける可能性があるのです。最近は分子標的薬という薬の登場で比較的ターゲットをしぼった治療法が組み込まれるようになっているが、主軸となる治療はまだまだ従来型の抗癌剤の使用が多いため、これらの副作用の認識がとても重要です。

抗癌剤治療の選択 

若年者のがん患者を診察する可能性のある科(血液内科や乳腺科、婦人科など)は医師やスタッフもそのあたりの認識は高いと思われるが、精子・卵子保存などを制度として整えている施設はまだまだ少ないのではないでしょうか。また、それら以外の科でも最近は若年でがんを発症するケースも増えてきており、不慣れだと、その様な話すら出ず、治療開始となる可能性があります。また患者側としては診断を受け、ただちに治療にとりかかりたい気持ちでいっぱいである時に、その後の人生のことまでゆっくりと考えることは難しいです。しかし、子供が欲しいという願望は自然なものであるし、あとから後悔しても取り戻せない可能性もあるため、患者・家族側も知識を蓄えておくことや、医療者側もしっかりとした制度の整備が必要と思われます。

もし根治治療ではない抗癌剤治療の選択であったとしても、自分の残された時間を考える中で、子供を作りたい、育てたいという願望は大切にしたい思いです。ただただ診断→抗癌剤治療導入、ではなく目的をもった治療方法の選択と、その目的が妊娠・出産や子供に関してであっても、気軽に相談できる環境と適切な情報提供は必須と思われるし、がん診療に携わる医療者としての基本的でかつ重要な姿勢だと思われます。