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腸と脳の密な関係
腸は第二の脳と呼ばれている不思議な臓器です。 皆さんも、緊張した時や強いストレスを感じた時にお腹が急に緩くなったりした経験がありませんか。実はこのような急性ストレスを身体が感じた際、ストレス信号が腸管に伝わり、お腹の動きに影響を与えることが分かっています。
過敏性腸症候群(IBS)
腸の検査や血液検査で明らかな異常が認められないのに、腹痛・便秘・下痢症状や腹部の違和感が持続する病気。このような症状を引き起こす代表的な病気の一つに、過敏性腸症候群があります。これまでは「過敏性大腸」といわれていましたが、小腸〜大腸を含む腸全体に機能異常があることがわかり、過敏性腸症候群(IBS Irritable Bowel Syndrome)呼ばれるようになりました。
IBSは10代〜40代の年代で発症が多いと言われており、日本人の約10〜15%、消化器科を受診する人の3分の1を占めるほど、頻度が高いと考えられている病気です。便通の性状により、便秘型、下痢型、交代型の3つに分類されますが、男性では下痢型、女性では便秘型が多いと考えられています。
IBSの原因は?
IBSの患者さんでは、様々なストレスが第2の脳でもある腸管により過剰に伝わってしまうことで発症することが分かっています。最近では、このしくみに「セロトニン」という神経伝達物質が深く関係しており、セロトニンのコントロール次第で腸の症状を抑えられることもわかってきています。
幸せホルモン”セロトニン”とIBS
セロトニンはノルアドレナリンやドーパミンと並び、体内で重要な役割を果たす”三大神経伝達物質”の一つと言われています。セロトニンは、自律神経の乱れを整え、心のストレスを穏やかにするようコントロールすることから、人間の精神面に大きな影響与えているホルモンの一つと言えます。精神の安定や幸福感、意欲に関係することから「幸せホルモン」と呼ばれることもあるくらいです。この幸せホルモン、人間の精神面に非常に大きな影響を及ぼすため、脳内に多く存在すると思いきや、実はその90%が腸内に存在し、血液中に8%、脳内に2%程度ずつ分布することが分かっています。腸内のセロトニンは、腸のぜん動運動に作用し、消化を助けるなど整腸作用があります。しかし、脳がストレス刺激を受けると、腸粘膜からセロトニンが分泌され、腸内にある「セロトニン受容体」と結合し、腸のぜん動運動が異常をきたすことで下痢や腹部症状を引き起こすのです。
IBSの診断基準
便通異常(下痢・便秘)を感じる方の中で、IBSかもしれないな・・・と感じられた方もいらっしゃると思いますが、IBSの診断はどのような判断基準があるのか以下に見てみましょう。
もし、以上の症状に心当たりがある場合、IBSと診断される可能性があります。便通異常を感じる疾患は数多くありますので、症状が合致するような場合、他疾患の可能性も含め、一度詳しい検査を医療機関でお受けいただくことをお勧めします。
IBS治療の実際
IBSは食事療法や運動療法だけで症状を劇的に改善させるのは難しい疾患ですが、生活改善を行いながらも症状に応じたお薬を併用するのも解決策のひとつです。日常生活で支障が出やすい場合、医療機関で医師に相談していただくと幾つかの解決策とともに、症状に合う内服薬を処方して下さると思います。ここでは、実際IBSの患者様によく処方されるお薬をいくつか紹介しますので、医療機関を受診される際の参考にしてください。
☆セロトニン3受容体拮抗薬☆
腸内セロトニンの作用を抑え、下痢症状や腹部症状を改善します。ストレスフルな毎日を送りがちな方や不安症状が強い方に有効です。
☆高分子重合体☆
軟便になりがちな時、便に含まれる水分量を改善し、ちょうどよい硬さに保つお薬です。
☆消化管運動調節薬☆
消化管の動きを活発にしたり、抑えたりする薬です。場合によっては整腸剤を併用することでより腸内バランスを保ちやすくすることが可能となります。
☆抗コリン薬☆
腸の異常な運動を抑え、腹痛を抑える薬です。激しい下痢症状が起きやすい方や、下痢症状が出ると困るシチュエーションでの頓服薬としてもお使いいただけます。
セロトニン3受容体拮抗薬の働きとは(動画)
今回、過敏性腸症候群に関して説明いたしました。近年ストレス社会の縮図として、IBS患者様が増えていると考えられています。とはいえ、完全にストレスフリーの環境を作り出すことはなかなか困難かと思います。日常生活の中で、ストレスとうまく共存しつつ身体の健康も維持し続けるためには、医療機関からのアドバイスの実行・お薬の利用も時には効果的と思いますので、症状に心当たりのある方は一度医療機関でのご相談をお勧めします。