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患者様の医療への不信

腫瘍内科医である私のところに来られる患者さんの多くは残念ながら手術適応がない進行癌であることが多い。信頼関係が最も重要と考えており、時間をかけて問診を行う。色々と今までの経緯を伺うと、自分の不摂生を恨んだり、職場の健診を受けておけばよかった、など後悔される方々が多い。一方で、いつも病院に通っていたのに・・や毎年検診を受けていたのになぜ見つからなかったのか、とそれまで受けてきた医療への不信を漏らす方も少なくない。

多岐に渡る「がん細胞」

一概にがんと言っても、出来た部位や細胞レベルの違いによって進行の程度は大きく変わる。例えば肺癌という病名でも、小細胞肺癌と非小細胞肺癌に分かれ、さらに非小細胞肺癌は腺癌・扁平上皮癌・大細胞癌に分類される。それぞれで病気の広がり方や治療方法も異なってくる。また最近は顕微鏡でみた細胞の形状以外にも遺伝子変異をみる技術も進み、肺癌においてもEGFR遺伝子変異の有無によって治療方法や治療効果期間がだいぶ異なってくる。またこれら遺伝子変異の検出は多岐に渡ることが指摘されている。つまり、一口に肺癌になった、という表現においても月単位で進行してしまうものもあれば、数年に渡って病状を維持できるものまであり、同じ病態ではないのだ。肺癌に限ったことではなく、どの癌にも比較的ゆっくり進行するタイプと急速に広がっていくタイプがある。

検診の重要性を説く

検診はとても重要であり、根治できる手段が手術のため、がんの早期発見が最も重要であることは疑う余地がないことである。しかも一度受ければよいのではなく、定期的に受診をしないと意味がない。では定期的に行っていれば必ず早期の段階で発見できるかというとそうでもない。前述の月単位でみるみる悪化してくタイプでは検診と検診の間に目に見える大きさとなり周囲に広がっていく可能性があることに注意が必要である。しかし、全体から見るとその確率は低いため、やはり日頃の検診は必要なものと言える。また検査自体も100%的中させるものは残念ながら存在しない。描出の限界もあるし、それを確認する人間の眼の限界もある。大事なことは、検診の限界を理解した上で、自覚症状に応じて医師に早期に相談することが重要と思われる。