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英語は世界に挑戦する上での運転免許証
医者であれば、英語を話せて当たり前じゃないのか?
答えは「NO」です。
確かにカルテの記載には英語を使いますし、英論文を読みますから、英語に接する機会が全くないわけではありません。
しかし、英語を流暢に話せる日本人医師は、案外少ないようです。というのも、学会などで海外に行くことはあっても、ビジネスマンに比べて、英語でコミュニケーションする機会はほとんどないからです。
先日もボストン留学時代の友人が、日本の病院を受診した際に英語でコミュニケーションができず困ったという話をしていました。
今後は日本にいながらにして、世界中の人と競争していかなければいけない時代に突入していくでしょう。そうした時代に、英語は世界に挑戦していくうえでの「国境を超える運転免許証」のようなものです。仕事に忙しく、多忙な人こそ英語を効率的に学び、世界に挑戦していかなければならないのです。
グローバル人材になるためには?
「グローバル人材」という言葉があります。2カ国以上を話し、かつプロフェッショナルな能力を有する人のことです。今やすべての産業でグローバル人材が求められています。特に、医療やヘルスケア、IT、テクノロジー、製造業、流通などの業界において、そのニーズは強まっているように感じます。
グローバル人材になるには、どうすればいいか。それには、プロフェッショナルな能力を磨きながら、ビジネスに使える「グロービッシュ」やサバイバル英語というものを習得すればいいと、私は思います。プロフェッショナルな能力を磨くには相当の時間と経験を要しますが、グロービッシュレベルの英語なら、英語の勉強を数年間頑張ることで身につけることが可能です。
私が英語の必要性をはじめて感じたのは、2009年に行われたWHO(世界保健機関)失明予防プロジェクトのアジア会議に、日本人の代表の1人として参加したときのことです(私の所属している順天堂大学の眼科は、WHOのアジア支部として、アジアの失明予防プロジェクトの一翼を担っています)。
タイのコラートで行われたこの会議には、アジア21ヶ国の代表が集まりました。私は日本の代表として参加しているわけですから、医療先進国として、日本の医療制度や地域医療政策などについて発表し、各国に向けて提言を行う必要がありました。
英語のプレゼンテーションは何とかこなしたものの、ランチやレクリエーションの場では、アジア特有のなまりの強い英語を全く聞き取ることができませんでした。しかし、私以外の他の参加者は笑いながら上手にコミュニケーションをとっています。今でも忘れられませんが、私はみんなで食事をするのもつらく、昼休みは近くを散歩して時間をつぶしたことさえありました。
今考えると、この聞き取れなかったアジアなまりの英語がまさしく、グロービッシュに他ならなかったのです。
グロービッシュは英語を学問としての英語ではなく、ただの意思伝達におけるツールとして捉えます。英語圏で生活していくための「伝われば十分」という、非ネイティブのための英語です。失明予防の会議で使われる英語は文法や発音なんて関係ありません。「何を伝えたいか」を協調して身振り手振りで伝えていました。
ハーバード大学の研究室はまさにグローバル
ハーバード大学の研究室でも、今やそのほとんどが非ネイティブです。そこで使われている英語は、動詞の単元も時制も、複数形も関係ありません。相手に伝わる簡単な英語が話されているのです。
世界を見ても、今や英語を話す人の78%は非ネイティブと言われています。つまり、私たちが英語でコミュニケーションをとるであろう相手は、そのほとんどが非ネイティブで、そこでは、ネイティブのようなきれいで正しい英語は求められていないことを理解しておく必要があります。
アメリカで生活していても、英語の語学レベルは本当に様々で、スペイン語なまりの片言の英語から、いわゆるネイティブイングリッシュを話す人までが共存しています。しかし、意思疎通さえできれば、英語は話すことができるという認識が一般的です。街角のクリーニング屋でも、タクシーでも、コミュニケーションをとることができれば全く問題ないのです。
グロービッシュを効率的に身につける方法
ここではグロービッシュを効率的に身につける方法について、いくつか述べていきます。
①「何のために英語を学ぶのか」を具体的に考え、やることを絞る
英語でディスカッションしたい、論文を書きたい、プレゼンテーションを上手に行いたいなど、目標は人それぞれ異なります。社内昇進のためにTOEICの点数が必要な人もいれば、世界一周旅行するための英語が必要な人もいるでしょう。このように、英語の最終目標は各自違うのです。
例えばプレゼンテーションに一番重要なスキルはスピーキングで、あとは質疑応答に対するリスニングです。ここでライティングやリーディングを鍛える必要はあまりありません。もちろん、総合的に取り組むことは、英語力の向上には良いですが、あなたの目標を達成するためには効率的とはいえません。そこで思い切って、スピーキングとリスニングの勉強に照準を絞ってしまいましょう。プレゼンテーションのスキルが上達したら、あとで他の勉強もすればいいのです。ここで注意すべきなのは、英語の勉強をすること自体を目的としてはいけないということです。
②英語の勉強時間を確保する
物理的に時間を確保するのに一番おすすめな方法は、朝の時間を英語の勉強にあてることです。
私も留学前には毎朝、英会話を勉強していました。朝のスケジュールは急に変わることはありませんから、継続することができます。これが夜だと、「緊急手術が入ったから英語の勉強はキャンセルしよう」などと、英語の勉強をしないそれらしい理由を作って逃げ出してしまうことがあります。逃げ出す理由を作ることのできない環境に自分を追い込みましょう。一番脳がクリアな朝の時間に英語を勉強することは、脳のメカニズム的にも有効といわれています。
スキマ時間を英語の勉強に使えばさらに効率的です。リスニングや単語の暗記などのインプットは移動時や昼休みなどのスキマ時間にこなし、貴重な朝の時間は、スピーキングや英語でのディスカッションなどに投資すべきです。
③TOEFLをペースメーカーにする
グローバル化の波が押し寄せ、TOEICは昇進に必要なものとなりつつあります。しかし、現在TOEICを使用している国は日本や韓国だけで、留学には役立ちません。せっかく英語を学ぶのであれば、海外留学や研究費取得の際に必要となるTOEFLを勉強することをおすすめします。
また海外のMBAなどのトップスクールでは、TOEFL iBT (Internet Based Test)で120満点中100点以上が必要とされます。この点数は、留学したいと思ったらすぐに取得できるものではありません。留学を考えている方は、TOEFL iBT100点を目標に、前もって勉強しておきましょう。
私もTOEFLの試験を英語の勉強のペースメーカーにしています。まず海外留学の日程に合わせ、TOEFLの目標点数を設定しました。その後、TOEFLの試験の結果で足りないところを埋め合わせるように勉強していくのです。TOEFLの試験を1〜2ヶ月毎に受けることで、自分の勉強の進捗を把握することができます。
④英単語は、忘れる以上の量を暗記していく
英語の勉強で、単語の暗記は避けて通れません。こればかりは量をこなすしかないでしょう。
人間が暗記できる量は、忘却曲線というものに従います。この忘却曲線を上回る量を暗記していかないと、忘れる量のほうが多いため、基本的に単語の絶対量の上昇は見込めません。忘れる量以上の量を暗記していく以外に方法はないのです。
効率の良い勉強法があります。それは、一度覚えた単語にムダな時間をかけないことです。単語帳でも、一度覚えてしまった単語は二度と勉強しないくらいでいいと思います。
私の単語勉強法は、1ページ毎にまずは意味を見ないでどれくらい知っているか確認します。意味の分からなかった単語の横に印をつけておきます。1ページ終わったら、分からなかった単語だけ再度同じことをします。あとはこの作業を何度か繰り返してすべての単語を覚えます。
ここで、私が小学生の頃に父親から教わった、とっておき(?)の英単語の効果的な覚え方をお教えしましょう。それは、眼で見て、口で読んで、耳で聞いて、手を動かすことで、見るだけよりも4倍脳を刺激できるというものです。
英語は伝えるためのツールに過ぎない
以上、いくつか述べてきましたが、グローバル人材に必要なのは、文化や政治的背景が異なる人にも意思を伝えることのできる能力です。正しい英語を話さなければいけないというマインドセットから脱却し、英語は「伝える」ためのツールに過ぎないという意識改革を行いましょう。
目標を次々に達成する人の最強の勉強法
最後に宣伝になってしまい恐縮ですが、私は2月に初めての著書『ハーバード×MBA×医師 目標を次々に達成する人の最強の勉強法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)を出版しました。おかげさまで発売から1ヵ月で4万部を超える売れ行きとなっています。
本書では、自分の経験を通じて得た、目の前の仕事としっかり向き合いながらも、将来進んでいきたい道に向けて勉強し、新しいスキルを身につけていくための方法論について書きました。本稿では書ききれなかった具体的な英語の勉強法についても1章まるまるかけて紹介していますので、書店などでぜひお手にとってご覧いただけますと幸いです。