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——宮本先生は前職でも、長期療養型病院で入院透析をご担当されていたそうですね。透析治療を専門とするなかで、難しい面などはありますか?

人工透析は大変に高額な医療なので、残念ながら世間からの風当たりが強い面もあります。国の医療費削減というテーマのなかでは透析も例外ではないですし、少し前に、元テレビアナウンサーだった方がブログで、透析患者さんに対してかなり過激な主張をされていましたね。
 患者さんだけでなく、私たち医療を提供する側も「高い医療費をとって儲けているんじゃないか?」というような厳しい批判を受けることが少なくありません。実際には、外来の透析の経営も難しい時代になっています。“治療のお値段”に相当する診療報酬が2年ごとに改定されるのですが、それが徐々に下がってきているんですね。かたや、治療を提供する実施コストはあまり変わりませんから、必然的に医療機関の利益は減っていきます。

——例の、元アナウンサーの過激な主張が物議を醸した件では、当事者としてどんなことを思われましたか?

 個人的には、医学的にも統計的にも、理解不足な主張だと感じました。当初ブログで発表された文章に補足や修正が入って、その後、言葉足らずだったと釈明するような記事も出ているんですけど、内容としては全国に公開するレベルではないでしょう。ある医者が「悪い患者さんもいるんだよ」ということを言った、そんな伝聞を書き連ねただけの内容でした。
 また、「殺せ」という言葉を、死が常に接近しているような透析患者さんに向けて使ったことには大変な憤りを感じましたし、主張はどうあれ、ひどく無礼だったと思います。
 透析患者さんがどれほど長生きされたかは、5年生存率でさえ非常に厳しいのが現実です。日本透析医学会が毎年統計を出しているのですが、透析治療を開始した患者さんが、その5年後に生きていらっしゃる確率というのは概ね60%前後なんです。この数字は長年変わっておらず、1983年以降、現在まで、だいたい60%前後で推移しています。
 透析治療を開始したあと、5年の間に10人中4人はお亡くなりになるという世界です。なお、10年生存率は約35%。これもこの前後で数値が横ばいに推移しています。
 つまり、「国の医療費を食いつぶして長生きする」というような治療では決してないということ。例の主張で一番受け入れがたかったのは、こういう科学的な事実を後回しにして、あたかも「カネの無駄遣いだ」と言い放ったことです。

——あの主張はかなり批判されていましたが、多くは倫理面の批判に終始していて、こういったデータをきちっと出して反論するメディアは少なかったように思います。

 お金がかかる、かかると言われるけれど、透析患者さんたちは望んだとしても皆さんが必ず長生きできるわけではないんです。
 もう一つ、透析患者の年間の死亡率というものがありまして、これはタブー視されてあまり言及されないのですが、概ね9〜10%前後というデータが出ています。これは、透析患者さんが10人いらっしゃるとして、来年には9人に減っているということです。
 医療が高度化して透析治療も改良が続いていますが、体調よく長生きできる保証があるような、完璧な治療では決してありません。こういう認識が、主張のなかには決定的に欠けていたと思います。

——患者さんたちは、この生存率や死亡率の数字としっかり向き合っていらっしゃるのでしょうか。

 実際のところ、多くの患者さんは、これらの数字をご覧になったらやっぱり落ち込みますよね。率直に「そんなに長く生きられないということですか?」とおっしゃる方もいます。
 透析とは、専門医としても大変に心苦しいのですが、究極的には皆さんが「死をどうとらえるか」という治療なんです。何十年後かもしれないし、来年かもしれないという自分の人生の終わりを、どう考えるかという治療なんですね。いまだに末期の腎不全を治療できる他の方法が確立されず、日本は透析から卒業できる腎臓移植を受けられる方もまだ限られます。
 逆の面から見ると、透析をしていない時間、自由に使える時間をどれだけ生き抜くかという意志が、この治療を支える精神的な柱になる。私たちは、それを見守っている状況に近いわけで、いつも頑張っているのは患者さん本人なんです。

透析内科 柴垣医院 自由が丘

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