「夢の薬」ニボルマブ

ニボルマブ。商品名「オプジーボ」という名前を色々なメディアで見たことがあるかもしれません。「夢の薬」と書かれ、従来はあまり信用のなかった「免疫治療」が脚光を浴びました。
現在日本国内では悪性黒色腫と非小細胞肺癌に承認されておりますが、順次拡大していくでしょう。また類薬の登場はすでに学会等で多数の報告があり、これらの薬剤もいずれ承認されることが予想されます。
投与数回で一般成人の年収を超える薬剤が次々に別のがんに承認され、またその費用をさらに超える薬が待ち構えている・・・。それが何を意味するか、「夢の薬」と取り上げているメディアが指摘しているところを見たことがありません。
がんに関わる国内の学会では、このままでは国が滅んでしまう、という危機感を持ち始めています。それはどういうことでしょうか。

画像: 「夢の薬」ニボルマブ

薬価は1年間の投与で3600万円にもなる

ニボルマブの国内の薬価をみてみましょう。
100㎎製剤1本およそ73万円です。
どのくらい投与するのかというと1㎏体重あたり3㎎となります。
これを2週間ごと、つまり1ヶ月に2回投与となります。例えば体重65㎏とすると65㎏×3㎎×2回でおよそ諸費用も含めて300万円ほどになります。
2ヶ月で600万円。平均年収を軽く超えます。1年間もし投与継続できたとすると3600万円にもなります。これだけ世の中の物価や消費税や年金などお金への目がシビアなのに、一人の患者さんに一つの薬剤を投与するだけで3600万円もの金額がかかることはおそらく大多数の一般の方々は知らないのではないでしょうか。
そしてその大部分が保険で、つまり税金が使われることになります。
この金額に患者数を掛け算すると・・・。現在承認されている疾患だけでも数万人いますし、今後別の癌種や、もっと高額な薬剤の登場、さらにはそれらの併用療法などがでてくると薬剤費用だけで数兆円やそれ以上に膨れあがる計算になります。
もちろん病気はこれだけではなく、様々な疾患のそれぞれの治療も発達していきますので、近い将来保険制度が崩壊することは想像に難くありません。
進行がんは根治できる疾患ではありません。これらの薬剤を投与し、病気がよくなり、社会復帰され社会貢献できるのであればみなさんも賛同しやすいかもしれませんが、残念ながらそのような状況下ではない方がほとんどだと思います。
治療効果(がんの進行を抑える力)は従来型の抗がん剤とあまり変わりません。もっとよく効く薬はいくらでもあるのです。

画像: 薬価は1年間の投与で3600万円にもなる

がん診療のリアル

現在がんは死因の第一位です。
しかし、それ以外の死因をみると心臓や脳血管、肺炎や事故など比較的急激に状態が変化する病気という捉え方ができます。一方がんにかかると短くても月単位、最近は治療の効果もあり数年長生きすることも可能となってきました。
誰もが平均寿命ぐらいまでは元気で過ごし、最後は老衰のように静かに旅立ちたいと願う方が多いと思いますが、現実的にはそうはいかないようです。
これは考え方ですが、人生の整理も、やり残したことに挑戦することも、大事な人たちと時間を過ごすことも、急に亡くなられた場合には出来ません。
そして、そういう方々はたくさんいらっしゃいます。
一方でがんというものは、そういう時間をもてる疾患とも言えます。今ある時間をどのように活用するかは人それぞれです。活用の仕方の中に抗がん剤治療があるのだと私は思っています。
現在の診療では「進行がん=抗がん剤治療」という安易な考え方で次から次へと決まった抗がん剤が投与され、悪くなると決まったように次の治療へ・・・。そしてある日選択肢がなくなるともう治療はできませんと言われ、途方にくれた患者さん・家族は地元の病院で最後の時間のフォローをしてもらう・・・。残念ながらよくある流れです。
困ったことに、医療者側も悪気があってそうしているわけではありません。少しでも長生きしてもらいたいからガイドラインに則り治療を行う。もちろん治療が出来なくなることも十分予想できていますが、そういう話は目の前の患者さんを傷つけることになるし、外来は忙しいし・・・という理由で結局最後まで話し合うこともなくその日を迎えてしまう。
それががん診療のリアルだと思います。
だから新薬がでると医療者側も嬉しいのです。悪気がないから使用したいと思うのです。より効果のある薬やそれらの組み合わせを見つけようと頑張っているのです。

画像: がん診療のリアル

自分がどのような人生を全うしたいか

がんは時間のある病気です。
がんでなくても必ずいつか誰もが亡くなります。
自分はどのような人生を送りたいのか、何を大事に生きていきたいかを治療選択肢がなくなってきてから考えるのではなく、がんと診断されたときから、もしくはそうではない今からでも考えていくことをお勧めします。
その時間の使い方の中で、無治療だとこれぐらいの時間、ある治療を行うとこれぐらい期待できるかもしれない、という情報をもとに自分のやりたいこと、過ごしたい時間を総合的に考える必要があります。お金や介護の面も含めて一切迷惑をかけたくない、という思いで抗がん剤治療を選ばないかたもたくさんおりますし、来年のこのイベントまでは頑張って生きていたい、という願いがあり、無治療希望であった方が治療を開始したこともあります。「〇〇がんStageⅣ→一次治療〇〇、二次治療〇〇、三次治療〇〇 すべて使い切ったので主治医の担当は終わり」という型どおりであればスマホのアプリでも出来るかもしれません。
様々な因子を総合的に判断する、そのためにはしっかりとした信頼関係の構築としっかりと話し合う時間も必要だと思いますが、その結果生まれてくる治療方針は全て異なっていてもおかしくありません。
もちろんガイドラインを無視して独自治療はいかがなものかと思いますが、大筋を理解しながら個々に合わせた修正を組み込むことこそ本当のがん治療医であると私は考えています。
ぜひ言われるがままにではなく、どうしたいのか、そのためにはどこまで治療を頑張っていくのか、じっくりと相談し考えてみてください。そこまで考えることができれば、どんな新薬だろうと高額だろうと、それに振り回されないで済むかもしれません。
おおげさかもしれませんが、次の世代に向けて安心できる国を維持するためにも、治療できるかどうかにばかり目をむけず、自分がどのような人生を全うしたいか今一度真剣に考えることが問われているのだと思います。
そしてがんに携わる医療者は考えることに対するサポートを惜しみなく提供することも必要だと思います。

画像: 自分がどのような人生を全うしたいか

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